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 技術解説: LED-UV硬化システムの最新動向

UV-LED硬化システムの最新動向


<技術解説>
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I はじめに
1992年に紫外線(UV)を発光するLED が初めて実験室で実現し、2000年以降UV-LED硬化装置の実用化の試みが始まったものの、実用機が登場したのはここ数年である。UV-LEDは、点灯/消灯を迅速に行え、高効率で、10万時間の寿命が期待され、有害なオゾン発生がなく、環境負荷物質である水銀も用いず、照射器が小型軽量になり、量産による大幅なコスト低減が可能であるなど、UVランプが抱える様々な問題を解決する最新技術として、多大な期待を持って歓迎されている。

一方UV硬化材料は2000年頃には根本的な技術が確立しており、UV硬化材料は基本的に、酸やラジカルの発生剤、及び重合基を備えたモノマーやオリゴマー溶液から構成される1)2)3)。UV-LED硬化に適した材料として、酸/ラジカル発生剤を分子内に組み込んだものも市場に登場してきているが、現時点では相対的に高価で、取扱いが難しい面があり、主にそれらの解決に力が注がれている。

現在のところ、UV-LED硬化システムは、必ずしも市場の期待を完全に満足させるには到っておらず、またUV-LEDは依然として高価な部品である。LEDがUVランプを完全に置き変えるのはもう少し先のことであるが、UV-LED硬化装置や硬化材料の基本技術がようやく出揃い、市場の期待感という追い風をうけて、その普及に向けた動きが始まっている。本稿では、UV-LEDの基礎知識、UV-LED硬化の特性、LED劣化機構を説明した上で、UV—LEDを硬化システムの現状および最新動向を紹介する。

 
I UV-LEDの基礎知識
紫外線は電磁波の一種であり、図1に示すように、その波長により真空紫外、UVC、UVB、UVA、UVVに分類される。LEDは半導体材料技術および製造技術に大きく依存し、LED開発は発光波長の短波長化と発光効率の向上の歴史である。UV-LEDは最先端技術であり、1例として395nmのUV-LDの強度(W/cm2)は近年のめざましい増加を示す(図2)。今日ではUV-LEDを含めて様々なLEDが市場で入手可能になっている(図3)。

図1 電磁波のスペクトル


図2 395nm LEDの強度増加傾向 (年々めざましく増加している)


 ※ 左から「UV-LED」、(b)可視光LED、(c)赤外LED
図3 各種LED

UV-LEDの特性
LEDは順方向電流を流すと発光する半導体素子である。LED (Light Emitting Diode:発光ダイオード)は、その名が示すようにp型半導体とn型半導体が接合したダイオード構造を有しており、pn接合付近で光が発生する。そのメカニズムの詳細は専門書4)5)に譲るとして、UV-LEDの重要な特性を以下に述べる。

① LEDの発光原理は半導体のバンドギャップ間のキャリア再結合によるもので、ハンドギャップに相当する波長を中心として狭い波長域の光を発生する点が大きな特長である。

② UV-LEDの発光スペクトルは狭く(図4)、長波長の赤外線(熱線)の放射はない。UV-LEDはUVランプのような熱放射の問題を原理的に持たない

③ LEDは光だけでなく熱も発生させる。投入パワー(W)に対して得られる発光パワー(W)の割合を発光効率と言う。特に高出力UV-LEDは発熱が顕著であり、現状では発光効率は20%以下である

④ LEDの過度な発熱は寿命を著しく短くする。現時点では高出力UV-LEDは冷却手段が不可欠である

⑤ プランクの放射則からも明らかなように、UV-LEDチップ自体の発熱は硬化材料を加熱するような赤外線放射を伴わない

UV-LEDは、電流のON/OFFに対して高速に応答して点灯/消灯し、寿命への影響はない。UVアークランプのように常時点灯させておき、機械的シャッター機構により点灯・消灯を行う必要はない。

UV-LEDの発光スペクトル
UV硬化用に入手可能な高出力UV-LEDの中心発光波長は365nm、375nm、385nm、395nm、405nmである。図4に、これら5つのUV-LEDの発光スペクトルと併せてUVランプの発光スペクトルを示す。UVランプは200nmから445nmにおよぶ広い波長域の発光スペクトルを示す。これに対してUV-LEDは狭い発光スペクトルを有している。
ここで、UVランプに比べてUV-LEDの発光ピーク強度が非常に大きいことは興味深い。図4に示すUVランプの365nmのピーク強度は2W/cm2程度、一方395nmや405nmLEDのピークは10W/cm2であり、UVランプのピーク強度の5倍に達する。

UV-LEDの普及が先に始まりつつあるのがUVインクジェット印刷であるが、興味深いことに日本国内では385nmが最もよく用いられる。一方北米やヨーロッパでは395nmが主流であり385nmでは硬化が遅いとの認識が広まっている。


図4 UVランプとUV-LEDの代表的な出力スペクトル特性
 
I UV-LED硬化の特性
UV-LED硬化システムにおいて、同じ強度(W/cm2)でも長時間照射すれば硬化は進む。つまり、強度はUV-LEDの能力の指標の1つであるが、硬化能力の指標にならない点に留意すべきである。UV硬化の実用面で重要なのは硬化速度であり、積算光量(J/cm2)が近似的ではあるが硬化速度との良い相関を示す。UV強度と照射時間が分かれば積算光量が決まる。照射時間はUV照射器と硬化材料との相対速度から決まる。最終的には用途に応じた条件下での硬化試験が不可欠である。

ところでUV強度が上がれば積算光量も容易に高められるので、これまでLEDの強度向上に着目されてきた。UVインクの硬化検討において、出力パワーを上げてゆくと、4~6W/cm2あたりを境に硬化速度が必ずしも向上しないことが、最近分かってきた。表面硬化が速く進み過ぎるため内部へのUVエネルギーの到達を阻害し、内部硬化が遅くなるためと考えられている。

さて、UV硬化材料は過去60年にわたりUVランプの広いスペクトルに最適な硬化材料として開発されてきた。LEDはランプに比べてピーク強度は大きいがスペクトルは狭いといった特性を持っているので、UV-LEDはUVランプと同列に比較や議論はできない。現在は、UV-LED硬化技術の普及期であることから、従来のUV硬化材料をUV-LEDで硬化させたいと言う要求が有るものの、安価で、取扱が容易で、長波長で硬化可能なUV-LED硬化用材料が登場するまでの過渡期と言えよう。

 
I UV-LEDの劣化機構
UV-LEDは、チップを構成する半導体結晶の発光領域に結晶格子の欠陥(転位)ができて、それが成長して電子-正孔対の非発光再結合中心として振る舞う結果、発光効率が低下して出力が低下する。劣化の根本原因である結晶欠陥は、基板結晶内に元からあるもの、およびその上に形成する結晶層の成長工程中に取り込まれる不純物により、どうしても避けられない。チップ内に残った欠陥は、温度、応力、電流密度、光密度などが原因となり増殖し伸びてゆき、それがpn接合付近の発光領域に入り込むと、効率低下の原因である非発光再結合中心ができる。LEDの光密度は、比較的小さいので劣化の原因として除外できる。問題となるのは温度、応力および電流密度である。

結晶欠陥が少なく、マイクロクラックを極力除去した応力に強いLEDチップの製造などは、LEDメーカの改善に依存する。LEDの使用者の立場でチップ内に残存した欠陥の増殖・延伸を防ぐには、チップ実装工程における応力の最適化、LEDを動作させる電流密度の制御、LED温度上昇を抑える冷却が不可欠になる。

 
I UV-LED硬化システムの現状
ここでは、ライン硬化UV-LEDシステムについて述べる。UV-LED硬化システムは、 1)UV-LEDアレイ、2)冷却装置、3) LED駆動電源、からなる。

1) UV-LEDアレイ
硬化速度を向上させるには、大面積に均一で高い照度を与えることが理想的であるが、UV-LEDは依然高価な部品なので、用途に応じて必要最小限のLEDを使えるような柔軟な設計も重要になる。 LEDアレイの例を図5に示す。複数のUV-LEDにレンズおよびヒートシンクを一体化したものをIntegration Technology社では「LEDモジュール」と呼び(模式図を図6に示す)、これをアレイ化して照射器を構成している。図5の(a)は、UV-LEDモジュール、(b)はこのモジュールをアレイ化した照射器、(c)は1枚の基板に必要な数量のLEDを実装した照射器である。 LEDモジュールのアレイ化は、基本照射性能はそのままに、所望の長さのアレイを柔軟に作製できる利点があり、アレイ長2800mmまで対応可能である。このIntegration Technology社の特許技術は、アレイ長が長い場合のコスト優位性が際立つ。なお、UV-LEDモジュールの外販も可能である。

図5 UV-LEDアレイ
   (左: プラグイン式LEDモジュール(Integration Technology社製)
   (中央: プラグインLEDモジュール16個で構成されたアレイ(Integration Technology社製)
   (右: 1枚の基板にLEDを100個実装したアレイ


図6 Integration Technology社製UV-LEDモジュールの模式図


2) 冷却装置
UV-LEDの冷却には、強制空冷と水冷の2つの手法が一般的である。空冷で対応できるのはピーク強度4W/cm2程度が上限となり、それ以上は水冷が必要になる。

空冷方式は、強制空冷を行うために照射器内にファンを内蔵すれば良く、照射器を小型軽量にでき、硬化システム全体を低コストに構成可能な利点がある。なお防塵を要求するクリーンルーム内での使用など、水冷を要求する用途もある。
水冷方式では、冷却水を冷やす循環式冷却装置と冷却水配管が必要になる。循環式冷却装置にはラジエター型とチラー型がある。ラジエター型は安価で小型であるが、熱交換効率が低く、周囲温度の影響を受ける(通常40℃以下)。特に熱源であるLEDを多く用いる場合、ラジエター型では限界がある。一方チラー型は高価で装置が大きくなるが、LED使用数への制限はない。

水冷方式では、少なくとも冷却水の流量と温度を常時監視し、規定値から外れた時にLEDへの電源供給を遮断するインターロックを備え、LEDの劣化や破壊、照射器の異常発熱を防ぐべきである。


3) LED駆動電源
UV-LED硬化において、出力強度を制御するよりも積算光量を制御する方が理にかなっている。そこでLED出力強度を一定にしてパルス駆動し、パルスのデューティー比を変化させるPWM(Pulse Width Modulation)駆動を行う(図7参照)。デューティー比が75%ならばLEDの発光時間が75%になり、積算光量は75%となる。PWM制御は電流値制御を行うよりも電力損失が少なく、特にUV-LEDアレイのように大電流の制御の際は高効率な制御を行える点に利点がある。LEDの劣化の進行はLEDの電流密度と温度に影響を受けるが、LEDの冷却を適切に行えば、PWM駆動はLED劣化抑制にも寄与する。Integration Technology社の製品では、PWM制御基板をLED照射器内あるいは電源内部のどちらにも設置可能である。

図7 PWM駆動

 
I UV-LED硬化システムの最新動向
Integration Technology社は、従来の水冷方式SolidCureおよび空冷方式PinCureの2機種に加えて、2010年9月10日に新たに10機種の最新のUV-LED硬化システムを発表した6)

1) 水冷システム:SolidCureシリーズ
25個のLEDを実装した「プラグインLEDモジュール」(図5(a)、図6)を水冷ジャケットに挿入して照射器を構成する点が最大の特長である。水冷ジャケットには、密度1.2g/cm3のアクリル材や密度2.7g/cm3のアルミ材を用いるので、極めて軽量かつ小型になる。図5(b)は、「SolidCure」の照射器のコア部分を示しており、これにカバーを取付けて使用する。

SolidCureはLEDモジュールを2列に配して照射面積を大きくしている。但し1列でも十分な積算光量が得られる場合には、高価なLED数量を半減させコストを抑えた「SolidCure N」を選択できる。なお、いずれも最大強度は 4W/cm2 (395nm、1mmの距離)を達成している。

アレイ幅は、2列モジュールで32mm、1列モジュールで16mm。アレイ長は、80mmから最大2800mmまで7mm刻みで拡張可能で、必要最低限のLED数量で照射器を構成できる点も、大きな特長である。拡張した場合でも強度分布は±5%以内である。LEDの波長も選択でき、365nm、385nm、395nm、405nmの4種類の異なる発光波長に対応している。

さて、電源を改良して、最大強度を8W/cm2 (395nm、1mmの距離)に増強した「SolidCure Plus」および「SolidCure N Plus」 は2011年度に発売予定である。SolidCureシリーズの照射器例を図8に示す。アレイ長400mmのSolidCureがUVラミネータ(UVニス加工)に採用された事例を図9に示す。
                               
左: SolidCure、右:SolidCure Plus                         上: SolidCure N、下: SolidCure
図8 SolidCureシリーズの照射器


図9 UVラミネータへのSolidCure適用例 (LEDアレイ長400mm)


2) 空冷システム
照射器内蔵の強制空冷用ファンが冷却装置であるので、空冷UV-LED照射器は非常に小型にできる。

PinCureシリーズ
Integration Technology社の最小・最軽量の製品が「PinCure」で、幅20mm×長さ80mm×高さ90mm、重量125gである(図10参照)。最大強度0.5W/cm2である。 「PinCure」は図10に示すアレイ長80mmの筐体を基本単位として、これを繋げて最大アレイ長2800mmまで拡張可能。但し拡張した場合でも強度分布は±5%以内である。電源改良により最大強度1W/cm2の「PinCure+」も選択できる。

図10 PinCureシリーズ照射器(空冷、小型軽量)

VTwinシリーズ
「PinCure」は1列のLEDアレイであるが、これを2列にしたのがVTwinシリーズである。 アレイ幅が32mmである以外は、基本構造や拡張性は「PinCure」と同じであり、最大強度0.75 W/cm2である。PWM電源を改良した「VTwin+」は、最大1.5W/cm2を得る(図11)。Vtwinシリーズは、PinCureシリーズの強度の倍にはならないが、積算光量は倍近くになっている。

図11 VTwinシリーズ

Hi-Cureシリーズ
空冷システムの高出力化を求める市場要求に答えるために、Integration TechnologyはHi-Cureシリーズ(図12)を開発し、2011年3月に発売を開始した。 主な特長は、
◆最大強度: 4W/cm2 ・LEDモジュール構造: SolidCureよりも大面積の発光面
◆LEDモジュール・アレイ: 2列アレイと1列アレイの2機種を投入
◆アレイ幅: 75mm(2列アレイ)と32mm(1列アレイ)
◆アレイ長: 35mm から 2800mmまで対応
詳細は弊社ホームページ6)をご覧頂くか、弊社までご相談ください。
   

                 
(左上と右上):2列アレイ、(左下):1列アレイ
図12 Hi-Cureシリーズ照射器

 
I おわりに
LEDの特性、その特有の劣化機構を整理し、それらに基づき設計開発された水冷および空冷両方のUV-LED硬化システム、およびその最新動向を紹介した。UV-LED技術や硬化材料技術の根本は2000年には出揃い、それらは共に実用化に向けて力が注がれている新しい技術である。本稿ではLED硬化装置の側面からまとめたが、硬化装置と硬化材料は両輪となって進展してゆくものであり、最適なUV-LED硬化を実施するには、それぞれの最適な選定が必要である。カタログデータであるUV-LEDの強度至上主義に陥ることなく、用途に応じた最適な積算光量を、実際の硬化試験により見極めることが重要であり、弊社では硬化試験用装置の貸し出しを行っているので、利用して頂きたい。今回紹介しきれなかった有用な硬化試験データは、別の機会に紹介してゆきたい。本稿で紹介した全ての製品資料は、弊社ホームページ6)からダウンロード可能である。詳細はお問い合わせください。

最後に、本稿をまとめるにあたって、開発技術情報を提供して頂いたIntegration Technology社に感謝致します。Integration Technology社は、UVインクジェット硬化装置の有力メーカで、世界市場で推定60%のシェアを持っています。産業用途向けにも完成度の高いUV-LED硬化装置を供給しています。

 
I 参考文献
 1) 松永元太郎、乾秀夫: 感光性高分子, 講談社 (1977)
 2) 米沢輝彦: PS版概論, 印刷学会出版部 (1994)
 3) 山岡亜夫、松永元太郎: フォトポリマーテクノロジー, 日刊工業発行 (1988)
 4) 米津宏雄: 光通信素子工学, 工学図書 (1992)
 5) Jacques I. Pankove: Optical Processes In Semiconductors, Dover Publications (2010)
 6) ファインセンシング(株)ホームページ: UV硬化, https://www.finesensing.com/uvcuring/uv.html


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